健康診断受診の義務付けは問題だ

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日本では労働安全衛生法によって、事業者は一定労働時間数以上働いている雇用者に対して、雇入時と定期(1年以内ごとに1回)の健康診断を行うことが義務付けられており、労働者の受診も義務となっています。

しかし、欧米では職場での健康診断は実施されていませんし、人間ドックという考え方もないそうです。それは健康診断に効果があるというエビデンス(証拠)が存在しないからです。

欧米では、検査を受けた群と受けなかった群で、死亡率などに違いがあるかを調べる比較検査がいくつも行われていますが、その結果は差がないか、受けなかった方が少し良い結果という場合がほとんどです。

なぜ、受けなかった方が少し良い結果になるのか。それは正確には分かっていませんが、恐らく検査に異常があったことに対する薬などによる過剰な治療が原因なのではないでしょうか。

検査に異常があっても、せいぜい生活習慣を見直す程度で十分なのに、薬などによって必要以上に積極的に治療しているのではないでしょうか。必要以上に身体をいじくりまくって、かえって悪くしているのではと推測されます。

他にも、検査に異常があったと知らされたときのストレス・胃カメラや大腸内視鏡などの痛みや苦しみを伴う検査そのものへのストレス・CTなどによる放射線被爆・薬の副作用なども考えられるでしょう。

欧米では、検査を受けた群と受けなかった群を比べた比較検査の結果を素直に受け入れているのに、日本人はそれを認めようとしない者のウソを信じてしまっているのです。

それを認めようとしない者とは、厚生労働省や世界的潮流から外れた医学会の重鎮や利益を享受する薬品等のメーカーなどです。

この比較検査の結果を鑑みれば、健康診断は止めるのが妥当な判断であり、少なくとも絶対に義務付けにするのはおかしいはずです。

なぜ義務付けするのは絶対にいけないのか。次のことを考えてみてください。

Aさんは、職場の健康診断を受けて血液検査の1項目だけがかなり高かったとする。仮にここではそれをコレステロール値としましょう。その値を見た職場の担当者は、病院で詳しく診てもらうようにAさんに言いました。

Aさんは全く気が向かなかったが、渋々行くことにした。そんなことで職場と揉めるのが嫌だったからだ。

しかしAさんは、もし病院に行ったときに医者が薬でコレステロール値を下げることを推奨してきても拒否することは決めていた。コレステロール値以外の検査データは全て正常だったからです。体型は普通で、血圧も全く問題なし、血糖や中性脂肪等のその他の検査値も全く異常はなく、動脈硬化の危険因子はそのコレステロール値以外には全くなかったからです。

また、自分のコレステロール値がかなり高いことは知っていたので、以前に頸動脈エコー検査なども受けていた。頸動脈エコー検査とは、頸動脈に超音波を当てて、動脈硬化の進行度合いを測る検査です。この検査についても何も問題はなかった。

また更に、AさんはCAVIという簡単な動脈硬化の進行度合いを測る検査も受けていました。これは両手、両足首の血圧と脈波を測定することで、血管の硬さ・足の動脈の詰まり具合・血管年齢が分かる検査なのですが、この検査でもAさんは年齢相応か少し若い程度の検査結果でした。

まあ、もっともこれらの頸動脈エコー検査やCAVIが、心筋梗塞や脳梗塞などの発生をどこまで予期できるのかというと信頼できない面が多いのも事実ですが・・・。

これらとは別に、Aさんは経済的にも苦しく、恒常的に薬を飲んだり、その薬をもらうために定期的に通院するために費用を捻出すると、更に家計が苦しくなるので、その点から考えても薬を使用するのは是非とも避けたかったのです。

問題は他にもあります。コレステロール低下薬では、「スタチン」という薬を使うのが一般的ですが、多くの多種多様な副作用が、かなり高い発生率で報告されています。

これらのことを総合的に勘案して、もし医者が薬によってコレステロール値を抑えることを薦めてきても断ることは決めていた。しかし案の定、医者は薬を飲むことを薦めてきた。まあ、そうなるだろうとは予測していたのだが。

そして、その結果を聞いた職場の担当者は、Aさんがいくら拒否しても、薬によってコレステロール値を下げることを執拗に求めてきました。

医者が薬を薦めてきたのは分かります。日本の標準的な治療のガイドラインならば、彼くらい値が高ければ薦めるのが一般的だと思ったからである。

しかし、彼くらいのコレステロール値であっても、薬によってコレステロール値を落とす必要はないと考える専門家もいるのです。

その一人が、東海大学の大櫛陽一名誉教授です。大櫛教授は次のように語っています。

コレステロール値を下げるには「スタチン」という薬が使われるのが一般的です。しかし、薬でコレステロール値を下げたところで、心筋梗塞のリスクは減少しないことが続々と報告されています。

それどころか、コレステロールの値は高いほうが良いのです。コレステロールの値が低くなるほど、全体の総死亡率が高まってくることが、分かっています。

コレステロールは身体の細胞にとって不可欠の物質であるからには、コレステロール値が低いことは、その不可欠な物質の欠如を意味し、それは身体に様々な不具合が起こることに繋がるのです。

大櫛教授は、コレステロール値が高いことが問題になる場合があるとすれば、家族性高脂血症の方々のみだと言っています。

この病気は、親からの遺伝によってコレステロール値が異常に高くなる病気です。片方の親から遺伝を引き継ぐヘテロ型と、両方の親から遺伝を引き継ぐホモ型があり、ホモ型の方が症状はより深刻となります。

Aさんは確定診断を受けた訳ではなかったので定かなことは分からなかったが、コレステロール値から推測して自分はヘテロ型の家族性高脂血症ではないかと考えていました。

しかし、前述の大櫛教授いわく、最近の研究によると、この遺伝病であっても、薬でコレステロールを下げる必要があるのかを疑わざるを得ないデータが出てきているそうです。

コレステロール低下薬の治験において、コレステロールの値は下がったものの、心筋梗塞に関わる因子は改善しなかったという結果が出ているそうです。

さらに、家族性高脂血症の遺伝子解析をしたところ、95種の関係遺伝子のうち81種は、たとえコレステロールや中性脂肪が高くても、心筋梗塞に結びつかないことが分かりました。

また、残り14種の遺伝子でも、「血液凝固性の異常」が同時に起こっている場合である可能性が分かっています。

これらのことを総合すると、家族性高脂血症の場合であっても、コレステロールの値が高いことと心筋梗塞とは何の関係もないということになります。

ただ、家族性高脂血症の場合、ひどくなると、アキレス腱などにコレステロールや脂肪の塊ができたり、急性膵炎の危険性があったりというような症状を呈し、そのような場合には薬を使う必要もあるでしょうということです。

しかし、それ以外のケースでは、たとえ家族性高脂血症であっても、薬でコレステロールを落とす必要はないと考えているそうです。

つまり、遺伝病がかなりひどくなってしまった場合のかなりのレアケースを除いては、コレステロールが高値になっても問題はなく、薬でそれを下げる必要もまったくないと考えているそうです。

Aさんの場合も、何の症状もなく、つまり遺伝病がひどくなっていない状態なので、大櫛教授の見解によると、問題はなく薬で下げる必要もないということになります。

Aさんのようなコレステロール値の場合には、日本における標準的な治療方針が薬によって値を下げるものだとしても、薬は必要ないという専門家の意見も存在するのです。そのような場合には当然、どうするかの最終決定権はAさん本人にあるはずです。そうでなかったとしても最終決定権は本人にあるべきだとは思いますが・・・。

そしてAさんは、薬を飲まないと決めましたが、職場の担当者から薬を飲むように執拗に迫られて、うんざりとさせられました。これは明らかに個人の自由を定めた日本国憲法に反する行為だと思われます。

Aさんは、そこまでしつこく迫るのなら、「私を解雇してはどうですか。」と最終発言をしました。しかし、会社側はそれは出来ないが、薬を飲まずにいることを放置することも出来ないの一点張りでした。

Aさんは、自分の状態を十分に熟慮した末に、憲法に定められた個人の選択の自由を使って、薬を飲むことを拒否したのに、その正当な権利が侵されてしまったのです。

このようなことが起こってしまうのは、労働安全衛生法が、事業者は健康診断を実施しなければならないとしていると同時に、労働者は健康診断を受ける義務があるとしているからです。

健康診断を受診した労働者が、その検査結果に対してどのように行動しなければならないというようなことは示されていませんが、逆に示されていないことによって曖昧になりやすい状態になっていると言えるでしょう。

厚生労働省、または職場の担当者、または検査や治療薬などを広めたいと考えている医療関係者、またはそれらの複数は、その曖昧さを利用して、検査を受けた労働者に対して、あたかも労働者には最終決定権がないかのような言い方で迫るのです。

この問題が深刻な理由は、労働安全衛生法によって、全ての事業者に健康診断の実施を義務付けしているので、たとえAさんが転職したとしても、何処に行っても検査結果に関して紛糾してしまう可能性が大きくあるということです。

これはつまり、こんな余分なことによってAさんは、何処で働いても大きく苦しめられる可能性が大いにあるということなのです。

更に、定期の健康診断でこれだけうるさく言われるのであるからには、今後どこに転職しようとしても、雇入時の健康診断によって失格処分とされるのではという不安を常に抱かなければならないことを強いられているのです。

Aさんは自分の健康を、何を基準にしてどのように保つかの最終判断を、自分でしようとしただけなのに、それを否定されているのですから、これは大きな問題と言わざるを得ないでしょう。

憲法に保障された個人の自由を行使しようとしただけなのに、こんなにも大きな煩わしさを人に受けさせる可能性が多分にあるからには、労働安全衛生法に規定された健康診断の義務付けは大きな間違いを有していると言って間違いないでしょう。

明らかに病気であるというのなら、雇い主側が口うるさく言ってくるのも、まだ少しは分かりますが、Aさんの場合には何の症状もなく、どう見ても健康そのものなのです。そんなAさんに対して、健康を保つためにどうこうしろと強制することは決して許されることとは思えません。

雇い主が健康に関して雇用者(または採用しようとしている者)に干渉できるのは、その雇用者(または採用しようとしている者)に何らかの症状があり、なおかつそれが仕事に支障が出ている場合に限るということが、最低限の基準になっている必要があるでしょう。

このことからは、雇入時の健康診断は禁止にしなければいけないということが導き出されます。上記の最低限の基準を守ることなく、症状がなく検査に異常値が出ているだけなのに、それを雇い主側が採用可否に用いることを防げないからである。

もしも禁止にしなければ、検査に異常値は出ているが、それは健康に何の問題もないという者を、どこの雇用主も採用しないことに繋がる可能性があり、それは差別以外の何ものでもないでしょう。

健康診断を受けても死亡率を始めとする健康増進を認めるデータが全く認められないにも関わらず、それを義務付けしたことがそもそもの根源的誤りであるが、更にその上に、健康診断の結果に対する対処方法の最終決定権が受診者本人にあるということを明確に明記していないことが問題を大きく深刻にしているのです。

検査結果に異常が見られたので、もう少し詳しい検査が必要と言われ、その検査結果が出るまでの生きた心地の無さは、経験のある方なら分かるでしょうし、経験がなくても想像はつくのではないでしょうか。

しかも、検査結果の正常範囲はかなり狭く設定されているので、健康な人でも何らかの異常が出る可能性が高いのです。

こんな苦しみを味わわなければならないかも知れない健康診断を、効果があるというエビデンスがないのに、義務化したことには大きな過失があると言えるでしょう。

そもそも血液検査や血圧などの検査項目の1つ若しくは幾つかに基準値から外れたものがあったとしても、それは自分の身体が、自分の身体の事情に合わせて、最もベストになるように司った上での値なのです。だからそれは、基準値から外れていようとも、その本人にとってはベストな値なはずです。

それなのに、全体を見て変化させていくのではなく、基準値を超えた検査値だけを薬で下げようとすればバランスを崩して、健康を増進させるどころか悪化させるのは自明の理ではないでしょうか。だから、健康診断を受けた群と受けなかった群で、死亡率などを調べた比較試験の結果は、差が認められないか、受けなかった方が少し良くなるのではないでしょうか。

このことを考えれば、ほとんどの場合は食事や運動などの生活習慣から変えていくのが、結局のところ最も効果的でリスクが少なくなるのではないでしょうか。

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